音帆日誌

坂本龍一『energy flow』をピアノで弾いた記録 ― 静けさの中にある流れを辿る

切ない旋律がじわっと沁みてくる。大きく動く曲ではないのに、気づくと呼吸がゆっくりになるような不思議な落ち着きがあった。『energy flow』は、時代が変わっても印象がぶれない曲だと思う。あの日の演奏を、そのままの形でここに置いておく。

坂本龍一『energy flow』|使用した楽譜とリンク

使用楽譜


この演奏では、坂本龍一自身が監修した『all about BTTB』を使用した。
坂本氏は、本人の知らないところで誤った楽譜が流通してしまうことを度々嘆いていたそうで、
リズム表記ひとつでも本来の意味が変わってしまう、と語っていた。
そういう話を読むと、やはり本人がチェックした譜面で弾くのが一番だと思い、この版を選んだ。

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坂本龍一『energy flow』|楽曲の基本情報

『energy flow』は、坂本龍一が1999年に発表したピアノ独奏曲。
同年発売のシングル「ウラBTTB」に収録され、三共(現・第一三共ヘルスケア)の「リゲインEB錠」TV CMのために制作された。
インストゥルメンタル曲として初めてオリコン週間シングルチャート1位を記録し、累計売上は約155万枚とされている。
2018年には「BTTB」20周年盤が発売され、新たなミュージックビデオも公開された。

制作過程について、坂本龍一は次のように語っている。

CM用に作った30秒の曲に、あらたにつけたして(笑)完成した曲です。栄養剤のCMだったので、“身体を癒すような音楽”というテーマがあったのですが、CMという非常に短い枠の中でアピールするために、いわゆるヒーリング系の音楽のように、ワンコードで淡々と続いていくような曲にするわけにはいかなくて、結果的に和声もメロディもはっきりした曲になっています。でも、現在のテレビから聴こえてくる音楽ってあまりにも騒々しいんで、ピアノだけの音楽というだけで、充分、癒されるんじゃないかな。

出典:『all about BTTB ― BTTB & ウラBTTB ―』(ヤマハミュージックメディア)

端的で実感のこもった言葉で、当時の制作環境や意図がよく伝わってくる。
“癒し”をテーマにしつつも、CMの尺の中で印象を残すために構築されたメロディと和声。
その背景がわかると、曲の静けさの奥にある芯の強さが少し見えてくる。

小さな舞台裏|ピアノ収録の記録

収録日は 2017 年 1 月 22 日。この日は全部で 13 回弾いた。訳あって一度動画を削除したが、後に編集し直して再投稿している。

残っているメモを読み返すと、とにかく「寒い」と何度も書いてあって、どれだけ冷え込んでいたのかがよくわかる。

どうしようもなくなって電気ストーブをつけたものの、火事になりそうで怖かったのを覚えている。おまけに、あのじぃ〜っという動作音にも集中を削がれていた。

真冬の収録は毎年悩ましい。いい方法はないだろうか?

寒い部屋
静かに響く
ピアノの音

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