音帆日誌

坂本龍一『戦場のメリークリスマス』をピアノで弾いた ― そっと残る静けさ

最初のフレーズから、そっと別の世界へ連れていかれるような感覚があった。
強さよりも、抑えた揺れが静かに続いていく。
そのやわらかな感覚が後々まで薄く残っていて、ふと思い出してここに記しておく。

坂本龍一『戦場のメリークリスマス』|楽譜とリンク

使用楽譜


今回の演奏では、坂本龍一自身が編曲・監修した『Avec Piano』を使っている。
坂本氏は、本人の知らないところで誤った楽譜が流通してしまうことを度々嘆いていたそうで、
リズム表記ひとつでも本来の意味が変わってしまう、と語っていた。
そういう話を読むと、やはり本人がチェックした譜面で弾くのが一番だと思い、この版を選んだ。

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坂本龍一『戦場のメリークリスマス』|楽曲の基本情報

『戦場のメリークリスマス』は、1983年公開の日本・イギリス合作映画。
音楽は坂本龍一。メインテーマとして使われているこの曲は、映画全体を象徴する存在になっている。

オリジナルの楽曲は、シンセサイザーを中心にした編成で作られ、
シンプルなモチーフが反復と変化を繰り返しながら進んでいく構造を持つ。

電子音の透明感と、少し人肌のある旋律ラインが並ぶバランスは、
坂本龍一の初期作品の中でもよく知られた特徴。

公開当時、映画とともにこのテーマも広く知られるようになり、
のちに数多くのアーティストがピアノアレンジや多様な編成で演奏を発表した。
現在でも、映画音楽の代表的なメロディとして扱われる機会が多い。

小さな舞台裏(ピアノ収録の記録)

今は2025年、収録日は 2016年12月13日だった。
20テイク。ブレスレットが落ちたり、椅子の軋みが気になったりして、途中で気持ちが少し萎えかけていた。

採用したテイクには、手がほんの一瞬だけ迷ったところがある。
右に行こうか左に行こうか、わずかに戸惑うような動き。
いまだにバレていない…と思いたいけれど、ここで白状しておく。

投稿後、楽譜の読み違いをご指摘いただき、“やっちまった…”と反省した。
それでも、コメントがやさしい方で救われたことだけは、よく覚えている。

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