降りしきる雪と、時間が止まったような静けさ。その奥で聞こえてくる旋律が、言葉にできない“思い”と“責務”の重さをそっと照らし出す。
坂本龍一が書いた「鉄道員(ぽっぽや)」の主題歌は、物語の核心にある“揺らぎ”を音として描いている。ここには、作品に関する情報と、演奏を通して触れた音の佇まいをまとめておく。
坂本龍一「鉄道員(ぽっぽや)」主題歌|楽譜とリンク
使用楽譜
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「鉄道員(ぽっぽや)」主題歌の基本情報
坂本美雨が歌う主題歌
- 映画『鉄道員(ぽっぽや)』(1999)の主題歌として制作
- 作詞:奥田民生
- 作曲・編曲:坂本龍一
- 歌唱:坂本美雨
エンディングで流れ、作品全体の静かなトーンを支える位置に置かれている
編成と音楽的な特徴
ストリングスとピアノを軸にした構成で、音数を抑えた書法が使われている。旋律はシンプルだが、和声の重なり方と“間”の取り方によって、雪景の空気や登場人物の感情が、直接言葉にされることなく静かに立ち上がってくる。
主題歌が物語で果たす役割
主題歌は、物語が静かに終わりへ向かう位置にそっと置かれている。感情を押し出すためではなく、場面の余白を支えるような “静かな存在感” がある。
ストリングスとピアノの重なりは、雪に覆われた空気の冷たさとも馴染み、登場人物が言葉にできない部分を静かにすくい上げていく。坂本美雨の声は、物語の中心に踏み込むことなく、少し距離を置いた場所から柔らかく寄り添う。
感情を説明しすぎることを避けながら、表情の残り香のような“余韻”だけを残していく。
小さな舞台裏(ピアノ収録の記録)
収録日は2016年12月3日。とにかく寒い。収録中はエアコンを基本的にオフにしているので、部屋の空気がゆっくり冷えていく。
手が冷えて動かなくなる前に決めたいのに、なかなかうまくいかない。10テイク目でようやく形になったと思ったが、まさかの“録れていない”という落とし穴。
そこから撮り直しを重ね、最終的に15テイクで区切りをつけた。どこで線を引くかは毎回の悩みだが、この日は特に判断が難しかった。
とはいえ、寒さで風邪をひいてしまっては元も子もない。無理のないところで終えるしかなかった。冬の収録は、身体の状態がそのまま音に響く。
“ぽっぽや”の冷えた世界観を意識したつもりが、後半はむしろ自分の寒さとの戦いに近かった。冬は過酷だ。(ちなみに夏も別の意味で過酷だ。)
終わりに
静かな雪景の奥に置かれた一曲だった。

