冬はつとめて──そう言われるけれど、冬の朝の空気には、もう少し深い層があるように思える。
吐いた息が白くほどけると、周囲の音がすっと引き、わずかな静寂だけが残る。
ほんの短い時間なのに、世界が少しだけ変わるような瞬間。
その白い静けさの中で、自然と浮かんでくるのがフランシス・レイ《白い恋人たち》。
季節が巡るたびに、「音は景色を運ぶ」という当たり前のことを、静かに思い起こさせてくれる。
その記憶の層をそっとたどるように、今回はピアノソロで録音してみた。
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楽曲について
『白い恋人たち』(原題:13 Jours en France)は、1968年にフランスのグルノーブルで開催された冬季オリンピックを記録した映画。
フランシス・レイが手がけたこのメインテーマ曲は、公開当時から広く親しまれ、映画を代表する楽曲として知られている。
静かで親しみやすいメロディーが特徴で、冬景色を思わせる穏やかな曲調が長く愛され続けている。
裏話・感想など
この曲を最初に耳にしたのは、小学校低学年のころ。
7歳か8歳、スキー場のリフト待ちの列で、白い息がゆっくり空へ溶けていくのを眺めながら、いつの間にか覚えてしまっていた。
その時はもちろん、曲名も作曲者も知らない。ただ、寒さとともに流れてきたあのメロディーだけが鮮明で、後になって「あれはフランシス・レイの曲だったのか」と知る。
大好きで、これまでいくつものアレンジで弾いてきたけれど、今回はあえてピアノソロ。
とりわけメロディーにそっと入る装飾音に、小さな息づかいのようなものを感じて、昔から惹かれている。
不思議と、滑っている光景は思い出せない。
残っているのは、あの長いリフト待ちの、白くて冷たい時間だけ。
子どもなりの退屈と寒さが混じった記憶だったのかもしれない。
それでも、あの白さだけは今でも変わらず心に残っている。

