音彩雑記

本番でミスしたときの立て直し方|演奏が止まりそうな瞬間の対処法と心の整え方

本番で思わぬミスをした瞬間、ふっと気持ちがゆらぐことがある。頭が追いつかず、指が戸惑うこともある。それでも時間はそのまま流れていく。そんな時、どうやって落ち着きを取り戻すのか。ステージで静かに立て直すための考え方を、私自身の備忘録としてまとめておく。

止まりそうになった時の考え方

ステージでいったん音を出したら、途中で止まらないことが大前提になる。どんな状況でも、まずは演奏を続けること。これに尽きる。止まらずに進んだほうが、結果として立て直しやすいことが多い。
※とはいえ、本番では思わず止まってしまうこともある。それは誰にでも起こる、ごく自然な反応だと思う。ここでは「続けられそうなら、そのまま進んだほうが戻りやすい」という視点で書いている。

一度流れが乱れても、「演奏は流れの中で立て直すもの」と見ておくと落ち着きやすい。そう思っているだけで、慌てる気持ちが少し和らぐ。

本番で体がパニックに傾いた時のこと

本番では、練習では考えられないような出来事が突然起こる。
集中がふっと揺れた瞬間、体のどこかだけが少し遅れてついてくるように感じることがある。
頭では「続けなきゃ」と分かっているのに、指先だけが一瞬ためらい、そのわずかな遅れで景色が少し遠くなる。

  • 足がつり、声を上げたいのに出せない。
  • 譜面が手前に落ちてきて、鍵盤も手元も見えなくなる。
  • 髪が唇に張り付き、「フーッ」と息を吐いても離れない。
  • 急にかゆみが走り、掻けないもどかしさが体の内側で広がる。
  • 目の前を虫が何度も横切り、視界がわずかに揺れる。
  • ヒールが床の隙間にはまり、ペダルの角度が微妙に変わる。
  • バックの音源が止まり、空気だけが急に静まり返ったように感じる。
  • 小さなお子さんがピアノの下からひょっこり出てきて、視界の端で動いた瞬間、心臓が強く跳ねる。

どれもほんの数秒の出来事なのに、本番ではその数秒が妙に長く伸びる。
体が少し硬くなり、呼吸が浅くなり、指先がひんやりとすることもある。

そんな時、私がまず意識を置くのは 指先の感覚
鍵盤に触れた時の「ツルッとした感じ」「ザラッとした感じ」にそっと意識を向けると、
その感触につられて、呼吸も少しずつ落ち着きはじめる。

この “身体の戻り道” をたどることで、頭の中の混乱がゆっくりと収まっていく。
視界が揺れたり、思考が遠のいたりしても、音を切らさずにいると、流れの方がこちらへ戻ってくる。

「鍵盤が見えてきた」
「指の重さが戻った」
「呼吸が入った」

そのどれか一つでも感じられれば、演奏は立て直しやすくなる。

どうしても戻れない時は、無理に続けようとせず、流れが静かに終わったように形をまとめる。
“止まった演奏を再開する” というより、少しアドリブのように、その場で整えて終わりの形をそっとつくる。
その方が、演奏が崩れていくのを力で支えようとするよりも、音楽として静かに収まっていくように思う。

本番に備えるための小さな工夫

いくつか方法はあるが、特に効果を感じるのは、曲を細かく区切って部分ごとに繰り返す練習。地道な作業ではあるけれど、こうした積み重ねが本番での安心につながる。

途中から弾き始めてみる練習も役に立つ。曲のどこからでも再開できるようにしておくと、万が一流れが乱れても戻りやすい。

もうひとつ効果的なのは、左手だけで通してみる練習。右手は意識が向きやすいが、左手は無意識に任せてしまいがち。左手のすべての音に目を向けておくことで、演奏の土台が安定してくる。

あえて楽器がない場所で、頭の中だけで音の流れを追ってみる練習も役に立つ。実際に弾かなくても、音の動きや手の感覚を思い描いておくと、本番で迷いにくくなる。短い時間でも続けていると、音のイメージと指の動きが自然に結びついてくる。

目を閉じて弾いてみる練習も、意外と効果がある。
視界を遮ると、指先の感覚や鍵盤の位置に意識が向きやすくなり、本番で視界が揺れた時の“戻り方”の助けにもなる。
ただし無理はせず、短い時間だけそっと試す程度がちょうどいい。

神経を図太く

一つ二つ音を外した程度で、何かが大きく変わるわけではない。少し不協和音が混ざったとしても、罰則があるわけでもない。ミスとの向き合い方も含めて、生の演奏の魅力だと思っている。

「間違えた」と感じた瞬間に気持ちが縮こまると、呼吸が浅くなり、余計な力が入りやすい。
そんな時は、心の中でそっと距離を置いてみる。「まあ、だから何なんだ」と小さく言い返すだけで、恐さがふっと薄らぐことがある。

動揺があっても、その様子をあまり外に出さないこと──つまり、少し“演じる”気持ちを持つことが大切だと考えている。内側で揺れていても、外から見える姿が落ち着いていれば、音の流れは整いやすいし、聴き手も安心する。

コンクールのように細部まで聴かれる場では事情が違うが、多くの場合、演奏者が気にするほど細かな揺れには目が向かない。こちらが落ち着いていれば、それだけで音楽として受け止めてもらえる。ステージでは、こうした空気も含めて演奏になっていくのだと思う。

まとめ

ステージで思わぬミスに出会うことは避けられない。
だからこそ、途中で止まらず、流れの中で立て直す力が欠かせない。
部分的な練習や、楽器がない場所でのイメージづくりが、その助けになると感じている。

気持ちが揺れても、まずは落ち着いて音を出し続けてみる。
音を切らさなければ、どこかで戻るきっかけが生まれる。
大事なのはミスそのものではなく、そこからどう整えるか──本番ならではの醍醐味だと思う。

完璧を求めても、思いどおりにいかないことがある。
にんげんだもの。
そう思うだけで、ふっと力が抜ける瞬間がある。

「音楽」は「音」を「楽しむ」と書く。
本番ならではの緊張や揺れも含めて、その時その時の音に向き合いながら、これからも演奏していきたい。

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